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2005年05月26日

おまけにゃ負ける

UNCUT イギリスを旅するというか、仕事絡みで、あるいは、「流れ」でイギリスに行くことが、年に数回あるんだが、帰国するときに必ず手を出すというか、買ってしまうものに雑誌がある。たいていは音楽雑誌や映画雑誌なんだが、実を言うと、国内でそういった雑誌を買ったことはない。もちろん、大昔、まだまだ雑誌でしか情報が得られなかった時代にはよく買っていた。好きだったのはレコード・コレクターズやミュージック・マガジン。といっても、後者の一部、反論もできないようなところでぼろくそに書かれてから買わなくなった。だって、そうでしょ。そんなものに金を出す気になれますか?っても、そういった雑誌を買っていたのは広告をチェックするためで、興味をそそられるわずかなものを除いて、原稿を読むことはあまりなかった。なぜ広告かというと、小さな輸入盤屋さんが独自の趣味や指向で興味深いアルバムを扱っていたりして、それを見ているとわくわくしたし、「本当に音楽が好きなんだなぁ」という気持ちを共有することができたからだ。

 でも、それも昔のこと。今ではMac関連や食べ物関連以外、ほとんど雑誌を手に取ることはなくなった。「そば」の特集とか「スシ」の特集とか... そのあたりには弱いし.. 一時は「きょうの料理」なんて雑誌を買いながら、料理に打ち込んでいたこともある。が、結局は、資源ゴミでいっぱいになって、棄てるのがオチ。というので、このところ、「勉強」になるMacの雑誌ぐらいしか買わなくなったのだ。これもこのごろではあまり「勉強」にならなくなってきたから、惰性で買っている感は否めいないけど。

 ところが、イギリスから帰るときには、必ず音楽雑誌と映画雑誌を買ってしまうのだ。それはなぜか... 要するに、おまけに弱いのだ。しかも、そのおまけが面白い。めちゃくちゃ面白い。

 例えば、前回イギリスに渡ったのはイタリアでのBanda Bassotti取材の直後で、その帰りに買った雑誌のひとつがこのUNCUTというもの。ご覧のように、私の大好きなザ・バンドの大特集で「知られざる物語」なんてのが掲載されているんだが、嬉しいのは、ここにCDがおまけで付けられていること。タイトルは、彼らのボックス・セット『Across The Great Divide』をそのままいただいたもので、その下に赤で『Music Inspired By The Band』と書かれている。要するに、ザ・バンドの特集と言うことで、彼らに触発されたアーティストの作品を集めてみましたという内容で、収録曲は16。リストを見ると、Mercury Revの「Opus40」、Drive-By Truckersの「Danko/Manuel」、Little Featの「Rag Mama Rag」、Brinsley Schwarzの「Silver Pistol」、Wilcoの「Theologians」、Will Johnsonの「Just to Know What You've Been Dreaming」、Grandaddyの「Lost On Yer Merry Way」、Ray LaMontagneの「Narrow Escape」、Corey Harissの「Frankie Doris」、The Gourdsの「Dying Of The Pines」、Procol Harumの「The Devil Came From Kansas」、Ben Weaverの「Old Mule」、Marc Carrollの「No Time At All」、Sparklehorseの「Painbirds」、Sufjan Stevensの「For The Widows In Paradise, For The Fatherless In Ypsilant」、そして、The Bandの曲「King Harvest (Has Surely Come)」が収められている。

 正直言って、ここに並べられているアーティストの半分ぐらいは名前も聞いたことがない。それでも、雑誌の値段は4.20ポンドということで、1000円弱。それで、これだけの音楽を楽しめるんだったら、充分に元を取れるし、なによりも、ここに収録された曲を聴きながら、ザ・バンドのどんなところに触発されたのかを確認するのも面白い。実際のところ、これまでもこういった雑誌におまけで収録されている曲で新しい発見をしたことは幾度もあるし、こんなものをきっかけにこういった未知のアーティストのアルバムを買い始めることも少なくはなかった。素晴らしいプロモーションなのだ。

NME cassette しかも、雑誌でチェックしてみると、選曲をしているのはRoy CarrとAllan Jones。後者は知らないんだが、前者はよく知っている。っても、面識はないんだが、25年ほど前、イギリスに住んでいた頃、よく買っていたNMEという音楽新聞のおまけでいろいろなコンピレーションをつくっていた人だ。まぁ、それもおまけのようなもので、数週間分のNMEを買って、そこに掲載されているクーポンを集めて申し込むと、結構面白い独自企画によるコンピレーションがめちゃくちゃ安い値段で購入できるというもので、初期のものは全て集めている。

 その第一弾が『Rough Trade』と題されたカセットで24曲入り。値段は覚えてはいないけど、1ポンドとか2ポンドとか、まぁ、子供のお小遣いのような値段で発売されたはずだ。懐かしくてたまらないんだが、ここに収録されているのはScritty PolittiとかThe beat、Wah! Heatと始まっていくんだが、全てを記すのはかなり面倒なので、割愛させてもらうけど、Robert WyattやIan Duryなど、大好きなアーティストの曲がてんこ盛りで、こういったものを通して新しいアーティストを発見していった。貧乏人丸出しだった当時、こういった企画がどれほど音楽好きを助けてくれたか... そして、ヴァイナル・ジャンキーと呼ばれる「好き者に」自分を育ててくれたか計り知れない。まぁ、そういった戦略にまんまとのせられていったということなんだが、それでも「単純な宣伝力」だけでしか「音楽を知ることがない」状況を打破してくれたのがこういった流れだったように思う。

 おそらく、これが大成功してどんどんシリーズが発展していくんだが、このあとに登場したのが過去の素晴らしい音源を集めたもので、スタックス・ソウルからアイランド・レーベルのレゲエもの、ブルーノートのジャズと、それまで普通には耳にするチャンスのなかったものが発表され、またまた音楽の深みにはまっていくことになるのだ。そのあたりの話は20年近く前に発表した本『ロンドン・ラジカル・ウォーク』のここに書いているので、暇があったら、読んでもらえればと思うのだが、後に、単純に過去の音源を集めるだけではなく、テーマに沿ったオリジナルのレコーディングを集めるものまで登場することになる。それがどれほど素晴らしかったかは別の機会に書いてみようと思うが、イギリスではこういった『雑誌におまけCD』というのがごく普通に行われているのだ。

 話がUNCUTに戻るけど、読み物としてザ・バンドの話が登場し、それを裏付けるように音楽を耳にする。そして、音楽の魅力にまたはまっていくという... 音楽ジャンキーにはたまらないのが、このおまけ付き。それが理由なんだろう、この時他にもいっぱい雑誌を買っている。MOJOという雑誌ではJoy DivisionのIan Curtisが亡くなって25年だというので、その特集を組み、78年から2005年にまで至るポスト・パンクの音源を15曲集めたコンピレーションCDが付けられていた。っても、私ゃ、カウント・オージィやドクター・ジョンの話の方がそそられたけど。それに、もう一冊買ったWORDという(これは音楽雑誌じゃないけど)雑誌ではEverything But The Girl他(全然知らない人ばかりだったけど)10アーティストの曲が入ったCDがついていた。

 CDの他にもDVDのおまけが付いている雑誌もあって、今回はなんか全然面白くないB級映画がついてきたし、雑誌によっては予告編を集めまくっているものもある。っても、日本での公開なんてずっと先だから、これを見ているだけでも楽しい。もちろん、監督や俳優とのインタヴューも収録されていて、なんか得した気分になるのだ。実をいうと、そんなおまけで手に入れたのがジョー・ストラマーが出演していた映画で去年か一昨年だっけの朝霧ジャムで上映された「Straight To Hell」。タダです。これ。信じられます?

 一方で、こういったことがなぜ日本でできないのか?かつてデジタル・メディア作りの仕事を手伝っているときにわかったのだが、JASRACのせいなのだ。要するに、使用している音源の楽曲著作権(作曲、作詞に関して)使用料を支払わないと不可能なのだ。ここで、常識的にわかるのだが、雑誌の場合、通常のレコード以上の枚数をプレスしなければいけない。20年ほど前のNMEでさえ、週刊で15万部ぐらいだといわれていたから、ここにおまけを付けるとなるとヒット・チャートに登場している作品と同じぐらいの金額を支払う必要性がでてくるのだ。そりゃぁ、無理だろう。加えて、音源を持っているレコード会社がどれぐらいこういったことを理解してくれるかも未知数だ。連中の発想としたら、「なんでタダでレコードを上げなければいけないの?」ってなことになるんだろう。

 それなのに、なぜイギリスでこれが可能なのか... 実は、こういった動きの最初が、まずインディから始まっていたことが第一の理由。柔軟な発想を持つ彼らはこれが有効なプロモーションになることを充分に理解して、結果をつくっていったからだ。そういった動きに、最終的にメジャーもおれていくということになったのだ。

 さらに加えて、JASRACのような組織が、当然、イギリスにもあるのだが、彼らはプロモーション目的による配布に関しては楽曲著作権使用料を免除しているという話を聞いたことがある。だから、こんな大それたことが可能なんだそうな。実際、ぼったくり組織にしか思えないJASRACにこの件に関して何度も問い合わせをした結果、JASRACや国内の音楽出版社と著作権契約をしていない、海外の楽曲に関しては、本来の楽曲著作権を持つ人(や会社)が使用料支払いを免除するという証明があれば、そういったことが可能であるとの話を聞いて、同じようなことをしたことがある。あの時はCD-Rによる雑誌だったのだが、ここでは音楽をきちんと視聴できるようにした作品をつくったものだ。といっても、小規模なものだったから、それほど相手にされなかったのかもしれないが、少なくともこういったプロモーションによって未知の音楽に触れ、実際にある程度の売り上げをつくることができたことはきちんと伝えておきたいと思う。

 さて、そんな面白いことが20年以上にわたってくり広がられているのがイギリス。それに対して、ほとんどそれができないのが日本。その違いがどこにあるのか、じっくりと考えてみたいものだ。加えて、JASRACへの使用料のおかげでどんどんつぶされていっているのがジャズ喫茶やロック喫茶。こと、ジャズに関する限り、ジャズ喫茶なくして、世界で最も大きいといわれるジャズのマーケットはできなかったはずだ。そういった「本当に音楽を愛して、知らしめている人たち」をつぶしていくってのはどういう意味なんだろうかと思う。そんな意味で言えば、ミュージシャンや作曲やといった人たちを守るという建前の下で、実は、確実に音楽を殺しているのがJASRACじゃないだろうかと思えるほどだ。音楽に関わる僕らはこういった問題を避けては通れないはずなんだが、不思議なことに真っ向からこういった問題に戦いを挑んでいったメディアもジャーナリストもほとんど目撃したことがない。なででしょうね?



投稿者 hanasan : 2005年05月26日 23:54

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