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2008年06月04日

嬉しいぜ、青江三奈再発

青江三奈 昔から大好きなアルバムで、ときおりDJのまねごとをするときに必ず使う作品に青江三奈の傑作、『The Shadow of Love』がある。これは1993年に彼女がニューヨークに行ったときに録音したもので、ムード歌謡から演歌といった、一般的な彼女のイメージからはかなりかけ離れている本格的なジャズ・アルバム。オリジナルが発売されたときに購入して、一度友人に貸して返ってこなかったというもので、廃盤になる寸前で再購入したという記憶がある。それ以降、久しく入手不能となり、中古市場では破格の値段が付けられるコレクターズ・アイテム化していたらしいんだが、昨年だったかに、インディ系のレーベルから再発されたようだ。本来これを発表したのはビクター音楽産業(現在の、ビクター・ミュージック・エンタテインメント)だったんだが、メジャーにとっては「ヒット曲満載」でなければ商品にならないということなんだろう。

 この作品が発売された95年、速効でこれを買ったきっかけを作ったのが、これもDJのまねごとで必ず使う名アルバム、『レディ・ブルース ー女・無言歌ー』。これは残念ながら、今も、入手は難しいコレクターズ・アイテムで、横浜でテレビ番組をやっていた頃、番組収録や編集作業を終えてスタッフと飲みに行った、ジャズと演歌の店『パパ・ジョン』で教えてもらった作品。群を抜いて素晴らしいのが巻頭の曲、「「組曲」レディ・ブルース」で、独特のブルース・タッチを感じさせるヴァイオリンがメドレーで歌われる名曲に見事な花を咲かせている。「伊勢佐木町ブルース」から「雨のブルース」、「港が見える丘」に「白樺の小径」と「別れのブルース」なんだが、青江三奈のハスキーな声に淋しげなヴァイオリンが絡んで見事な傑作となっている。

青江三奈 といっても、おそらく、このイントロを聴いて誰がヴァイオリン(フィドル)を演奏しているのか当てることができる人はほとんどいないだろう。なにせ、どう考えても青江三奈とは結びつかないからだ。実際、初めてこれを聞かされたときに、敬愛するバーの親父、パパ・ジョンがそう尋ねたものだ。そんなこともあって、この曲を聴かせると決まって「このヴァイオリン、誰かわかるか?」と質問をぶつけるようになってしまった。

 実をいえば、このヴァイオリンは、親父さんの店の名前にもなっているPapa John Creach(パパ・ジョン・クリーチ)。ブルース好きなら一度はこの名前を耳にしたことはあるだろうし、昔からのロック・ファンだたらJefferson Airplane(ジェファーソン・エアプレイン)からHot Tuna(ホット・ツナ)あたりで活躍していた黒人のヴァイオリン弾きのことを知っているはずだ。そのパパ・ジョンと青江三奈が絡んだのが『レディ・ブルース ー女・無言歌ー』の巻頭に収録されている曲だ。これには、やられました。完膚無きままに惚れ込んで、あの当時、なんとか探し出して買ったこのアルバムをこれまで何度聞いたことか。傑作です。

Papa John Creach もちろん、どういったいきさつでこの二人が共演することになったのか? なんの情報もありません。日本で発売される、いわゆる歌謡曲のアルバムにはライナーノーツもなにもなくて、しょせんは「消耗品」として音楽が発売され、消化されているのを目の当たりに感じるのがこんな時なんですが、これほどまでに歴史的なセッションの背景を知ろうにも、すでに青江三奈は他界し、なにもわからないのです。チャンスがあれば、当時の関係者に話を伺うことは可能なんだろうけど... そのあたり、今回の再発に当たってこういったこともライナーで書かれていれば、実に嬉しいんだが、さてどうなんだろう。

レディ・ブルース ー女・無言歌ー』については、中古盤ででも探すしかないんですが、再発された『The Shadow of Love』については、だまされたと思って買ってください。ジャズ・ヴォーカルが好きで、名盤と呼ばれるヘレン・メリルの『ウィズ・クリフォード・ブラウン』が好きだった、間違いなく惚れ込みますから。そう、青江三奈はヘレン・メリルに比較されても全然おかしくない... どころか、歌のレンジの広さからいえば、遙かに凌駕するヴォーカリストだというのが自分の見方です。

 さて、そのヴォーカリストとしての才能を見事に証明したのが『『The Shadow of Love』で、特にぶっ飛んだのは「Bourbon Street Bluse」という名で収録されている「伊勢佐木町ブルース」と「本牧ブルース」。ちょっとファンキーなタッチのリズムで、英語で歌われているんだけど、これが素晴らしい。プロデューサーでアレンジャーとして名を連ねているのはMal Waldron(マル・ウォルドロン)。ビリー・ホリデーに捧げた傑作『Left Alone』を残したジャズ・ピアノの巨人で、すでに他界しているのは知っているだろう。その他、やはり故人となっているサックス奏者、Grover Washington, Jr.(グローヴァー・ワシントン・ジュニア)、トランペットのEddie Henderson(エディ・ヘンダーソン)、ベースにGeorge Mraz(ジョージ・ムラーツ)などの顔ぶれが見える。しかも、ナット・キング・コールの弟、フレディ・コールとのデュエットも収録されるなど、実に素晴らしい。元々ジャズ・ヴォーカリストだった青江三奈が、その本領を発揮した見事な作品だと思う。

青江三奈 今回はそのアルバムに加えて、同じようなコンセプトでニューヨーク録音した『Passion Mina in N.Y.』という作品もCD化されていて、今回はこれを買った。イントロはアート・ブレイキーで有名な『モーニング』のフレーズで、そのまま「伊勢佐木町ブルース」に入っている。なんでも、本当はスタジオ録音なのに、レインボー・ルームでのライヴも加えて、「疑似ライヴ」的な仕上がりにしているのがこの作品の面白さだ。(本作品のライナーを岩波洋三氏が執筆されているんだが、そのあたりの事情はそこに詳しく記されている)このアルバムで最も好きなのはビリー・ジョエルの名曲、「ニューヨーク・ステイト・オヴ・マインド」。青江三奈が並のヴォーカリストではなかったことをつくづくと思い知らされる名唄だと思っている。

 その他に、このシリーズで復活したというか、できあがったのが、彼女が映画などで歌った曲を集めたアルバム、『女の警察 ~青江三奈ムーヴィートラックス』。これはまだ買っていなくて、頭を悩ませているところ。彼女だったら、いい作品には違いないんだろうが、ちょっと二の足を踏んでいるのだが、おそらく、買ってしまうんだろうなぁ。

 ちなみに、今回の復刻化を手がけているプロデューサーは、いつものように高譲さん。彼とはどこかでつながっているんではないだろうかと思うほどに趣味が似ていて、これまで彼が手がけた復刻化作品を数多く購入している。そんな意味でも間違いないんだろう、きっと、この原稿を仕上げたら、きっとまたクリックしてしまうんだろうと思う。

 さて、上述のジャズ・アルバムを仕上げた数年後に青江三奈はこの世を去ることになる。すい臓癌だったらしいんだが、まだまだ死ぬには早すぎたことが悔やまれる。特に、一連のジャズ作品は彼女の才能の本質を見事に言い当てていたと思うし、もっともっとやって欲しかったと思うし、ジャズをベースとしたライヴも見てみたかったと思う。調べてみると、彼女が他界したのが6年前の7月2日。59歳で亡くなったのは、はやり若すぎると思うのだ。



投稿者 hanasan : 2008年06月04日 10:24

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