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2008年08月29日
Wattstaxの夢が現実になるとき(前編)
8月10日にソウル界の巨人、アイザック・ヘイズが亡くなったという一報が届いたときに、即座に思い浮かべたのは、ソウル映画、ドキュメンタリーの傑作、『ワッツタックス』だった。すでにこのDVDについては、3年ほど前にこのサイトでレヴューを残しているんだが、そのDVDのラスト近く、ジェシー・ジャクソン牧師の紹介でステージに登場するアイザック・ヘイズを収めたシーンの素晴らしいこと。イントロに登場するクチャクチャ、ワウワウのギターの音が、そして、あのリズムが一瞬にして会場の空気をがらりと変えてしまうところなど、あの公演から36年を経た今見ても、背筋がゾクゾクするほどのインパクトを与えてくれる。10万人のオーディエンスとの演奏や演説を通じてのコール・アンド・レスポンスや、どこかで静かに沸騰するようなエネルギーが会場に渦巻いているところから、否応なしに感じるのは異彩を放つ時代の息吹。その全てがここに封入されていると言っていいだろう。
というので、そのDVDを探したんだけど、見あたらない... いつものことなんだが、きちんと整理をしていないのか、あるいは、誰かに貸してしまってなくしてしまったのか... 結局、再び注文してしまうことになったんだが、嬉しかったのは廉価で国内盤が再発されていたこと。以前購入していたのはアメリカ盤で、それなりに理解ができるんだが、ディテールについていうならば、やはり字幕がついている方が嬉しい。すでに記憶が定かではないんだが、そのアメリカ盤にも収録されていたボーナス映像もこれでゆっくりチェックできる。あのときはチェックすることがなかった、パブリック・エナミーのチャックDとソウル史の研究家、ロブ・ボウマンによる音声解説やこのドキュメンタリーの監督、メル・スチュワートに、この映画の顔でもある、そして、つい先日亡くなったばかりのアイザック・ヘイズによる音声解説もまた、さらに新しい世界への扉を開いてくれることになるだろうと思う。
そのDVDが届いて、早速それを見ながら、これを書き始めていたんだが、どうも集中して原稿を書けない。AVセレクターからアンプにつないだスピーカーを通して音楽を聴き、流し目で画面を見ながらというのが良くないのは当然のこと。ついつい画面に引き込まれてしまうのだ。それほどまでのエネルギーがここに詰め込まれているということなんだろう。同時に、そのエネルギーが向かった先のことを考えると、夢を体験すること亡くなくなってしまったアーティスト達に同情してしまうのだ。
このDVDにボーナス・トラックとしてほぼ全編の演奏が収録されているアルバート・キングは1992年に他界し、この映画で「Respect Yourselfe - 自らを尊敬しよう....というよりは、胸を張れといった方がいいと思う」(『Bealtitude』に収録)という名曲を演奏しているザ・ステイプル・シンガーズの父、ポップス・ステイプルズは2000年にこの世を去っている。結局、ザ・ステイプル・シンガーズはそれを契機にその歴史にピリオドを打つことになり、その軌跡を継ぐように活動を続けているのが娘のメイヴィス・ステイプルズ。今も精力的に動いているようで、最近はライ・クーダーをプロデューサーに『We'll Never Turn Back』というとんでもない傑作を生み出してくれているんだが、そのアルバムで公民権運動時代を振り返り、「闘いを続け、後戻りはしない」と聴く人たちに、そして、自分にも言い聞かせているあたりに、『ワッツタックス』と同じエネルギーと今につながる彼らの「闘いの歴史」を感じるのだ。
『Do The Funky Chicken』で一世を風靡した、ちょいとコミカルなタッチも感じさせるルーファス・トーマスが亡くなったのは2001年で、『ワッツタックス』の映画での進行役を務めながら、ブラック・ジョークで時代をえぐっていたコメディアン、ブリチャード・プライヤーも2005年に他界している。この映画で歌われている名曲「If Loving You Is Wrong I Don't Want to Be Right」(『The Best of...』に収録)を残したルーサー・イングラムも昨年亡くなった。ご存知の人も多いと思うのだが、ロッド・スチュワートが『Foot Loose & Fancy Free』でカバーしたのがあの名曲だ。そして、今月、心臓発作で亡くなったのが、ブラック・パワーの時代を象徴した映画『Shaft(邦題 : 黒いジャガー)』のテーマ、そして、この『ワッツタックス』の看板と呼べる曲を歌っているアイザック・ヘイズということになる。
そんな彼らが、おそらく夢にまで見ただろう、時代がすぐそこにまで来ているような気がするのだ。このワッツタックスがLAコロシアム(二度のロサンゼルス・オリンピックの開会式で使われた会場)で開催されたのは1972年8月20日。今から36年前なんだが、この時代に、アメリカ大統領選に有色人種が登場することなど、想像もできなかっただろう。いうまでもなく、有色人種が言葉にできないほどの差別を受けていた時代の、どこかで「抵抗運動のシンボル」としてこれがあったように思うのだが、これがなぜ開かれたかを知るには1955年にまでさかのぼる公民権運動に目を向けないわけにはいかない。そのあたりのことは、後編として、数日後に書いてみようと思う。
投稿者 hanasan : 2008年08月29日 11:21