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2008年11月01日
Wattstaxの夢が現実になるとき(後編)
今では信じられないかもしれないが、わずか45年ほど前までアメリカでは有色人種に、人間にとって当然の投票する権利が与えられてはいなかった。要するに、「民主主義の国」「平等の権利のある国」という看板を掲げ、他の国を軍事力で「解放してきた」とされるアメリカには「差別が合法的なもの」とする、まるで南アフリカのアパルトヘイトと同じような野蛮きわまりない体制が当たり前のように存在していたのだ。そのひとつが南部を中心に施行されていた人種隔離法だった。公共交通機関の列車やバス、学校から病院、ホテルに公衆便所にレストラン... どこでも白人が優先され、目を覆いたくなるような「差別」が公然と幅をきかせていたわけだ。
それが最もひどかったのがかつて黒人を奴隷として扱っていた南部で、ある事件をきっかけに注目されることになったのがアラバマ州だった。実は、アメリカの時代を揺るがし、変革することになった「公民権運動」(有色人種の市民権を獲得する運動)の始まりは、この州のモンゴメリーに住んでいた42歳の女性、ローザ・パークスから始まっている。ご多分に漏れず、あの当時肌の色によってエリアを分けられていたのがバスの座席。しかも、白人乗客が増えると黒人は席を白人に譲らなければいけないとされていたのだが、1955年の12月1日、それを拒否したのがローザ。その結果として、彼女は逮捕され、それをきっかけにその地に住んでいた若者の牧師、マーティン・ルーサー・キングを中心とした黒人解放運動が全米に広がっていくことになる。そのローザのことを歌ったのが来日したばかりのネヴィル・ブラザーズの名作、『Yellow Moon』に収められている「シスター・ローザ」で、彼女の人生を映画化した作品で、現在、入手可能なのが『Rosa Parks Story』という作品だ。
結局、彼女の動きに感銘を受けた地元の人たちによる1年にも及ぶバス・ボイコット運動が実り、全米からのサポートが加えられることによって、最終的に人種隔離法がアメリカの憲法に違反しているという決定につながっていくのだ。それによって、公民権運動、要するに黒人(有色人種)であっても選挙に投票できるようにする、人間にとって当然の権利を獲得する運動が拡大していくという流れなんだが、数行でこんな歴史を書けるものでじゃないのは明らかだ。なにせ最底辺に住んでいる多くの有色人種にとって公共交通機関は生活の足であり、それをボイコットするということは、現代に住む人間からいえば「あり得ない距離」を毎日のように歩かなければいけないことになる。今の我々にそんなことが可能かといえば、正直言って、不可能だろう。が、それをやってのけたのが彼らなのだ。
そんな彼らを支え、闘う仲間の絆を深めていったのが歌だった。苦しみと絶望のなかから生まれ、自らに言い聞かせるように、そして、互いを励ますように歌われたのはゴスペルやブルース。その歌や音楽が放つエネルギーや影響は絶大だった。すでに音楽が商品としてしか認識されていないような時代や場所に生きている我々にはとうてい想像できないだろう。『ワッツタックス』にも姿を見せているザ・ステイプル・シンガーズや、インプレッションズにサム・クックといったゴスペルからソウル界にフォーク界ではプロテスト・ソングが脚光を浴び、PPMからジョーン・バエズ、そして、ボブ・ディランらが「民の声」を代弁していくようになるのだ。
その運動の象徴的な出来事こそが、20万人を全米から集めた1963年8月28日のワシントン大行進であり、そこで行われたマーチン・ルーサー・キング牧師の演説、I Have A Dreamだった。もし、少しでも時間があれば、このリンクをクリックして、彼の演説を聞いて欲しいと思う。この演説がどれほどの意味を持ち、インパクトを与えたか... ブラック・ミュージックのみならず、リベラルだとされるアメリカ音楽を好きな人には、感じることができるはずだ。その後のジャズ、ブルース、ソウルの曲やアルバム・タイトルなどに幾度となく姿を見せるのがこの演説で聞こえてくるフレーズ。というよりは、この演説そのものが音楽的であり、歌であり、訴えなのだとさえも思うこともある。それほどに、この演説は素晴らしかった。
面白いことに、これを初めて意識したのはスティーヴィー・ワンダーの名曲、「ハッピー・バースデイ」(ボブ・マーリーの影響を多分に受けて生まれたという『Hotter Than July』に収録)という12インチだった。キング牧師の誕生日をアメリカの祝日にしようというアピールを持って、これが発売された当時、B面に収録されていたのが彼の演説の数々。自らの死を予言したことで知られる「プロミスト・ランド」もここに含まれていたのだが、なによりも胸を打ったのはこのI Have A Dreamだった。今、きちんとワーディングされたものを見てみると、思っていたこと以上のことが語られているんだが、それでも、頭の中にこびりつくことになったのはこの下りだ。
『いつかかつての奴隷の息子達と奴隷所有者の息子達が、兄弟愛というテーブルにつけることを。 私の4人の子ども達がある日、肌の色ではなく人物の内容によって判断される国に住むことを。』
そんな夢を「私は抱いている」と語っているのだが、今、アメリカの大統領選挙の日に、ひょっとすると、そんなキング牧師の夢の片鱗が形になろうとしているのではないかと期待してしまう自分がいる。もちろん、正直言って、アメリカの大統領にこれまでいかなる期待も希望も持ったことはなかった。民主党であれ、共和党であれ、鬼を選ぶか、悪魔を選ぶか... というのが大統領選挙だと思っているからだ。が、どこかで今回の選挙にはかない期待を持っているのを否定できない。これで、ひょっとすれば、アメリカに変化が訪れるのではないか...と、そんなはかない期待を胸に、あの選挙の結果を見つめていようと思う。
投稿者 hanasan : 2008年11月01日 14:53