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泣ける...のではなく、泣いたのだ
端で見ている人たちは、このふたりの中年親父をどう見ていたんだろうか... かなり珍妙な光景だったに違いない。
それは、今年のフジ・ロック・フェスティヴァルでのこと。The Blind Boys of Alabamaがオレンジ・コートで演奏したときだった。最初の曲だったのか、あるいは、2曲目か、聞こえてきた『People Get Ready』に(こちらに詳しい説明があります)まずは身体が反応していた。そう、ゾクゾク、ぶるぶる、うわぁ〜んの前触れだ。というのもこの曲、1965年にワシントンDCで開かれた公民権運動の象徴ともいえるデモ(知らない人は是非聞いてもらいたいのだが、マーティン・ルーサー・キング牧師が「I have a Dream」という有名な演説を行ったとき)に触発されて、当時、インプレッションズのメンバーだった巨人、そして、伝説となったカーティス・メイフィールドが作った歌。このあたりに関して書き出したらきりがないんだが、これはSam Cookeの『A Change Is Gonna Come』やフォートップスの『Reach Out I'll Be There』につながる名曲で、まずはこれに身体が震えた。
そのゾクゾク、ぶるぶるのせいだろう、中目黒でエチオピアン・レストランを経営し、この日はステージ横でBlue Nleという店を出していたソロモンと一緒にステージ前の柵のところまで動いていってしまったわけだ。今までの人生をいろいろ思い出してみるのだが、偶然チケットでステージ前を取ったことはあるけど、スタンディングのライヴで真ん前に出ていった経験は、写真の撮影を除けば、初めての体験だ。
ちょうどそのとき、ステージにゲストとして登場したのがベン・ハーパーと、彼のバンド、The Innocent Crimiinalsのパーカッション、リオン。実は、The Blind Boys of Alabamaのアルバム『Higher Ground』を以前ここで紹介したとき、(記事はこちら)あのアルバムで最も好きな曲、Benの曲で"I Shall Not Walk Alone"を彼らがフジ・ロックで一緒にやってくれないだろうかとかすかに期待していたんだが、本当にそれが起こるとは... おそらく、舞台裏でプロデューサーの日高氏がマネージメントや本人に頼んでくれたんだろう。同時に、Ben自身もやりたかったんだろう。この日はJack Johnsonのステージにも飛び入りしたと伝えられている。しかも、彼らがグリーン・ステージに登場する少し前に演奏していたMITCH MICHELLE AND BILLY COX OF JIMI HENDLIX EXPERIENCEを袖でみながら、「いや、僕も演奏したいけど、話が決まっていないからなぁ...』なんてことも話してもいた。おそらく、彼も祭りの空気にとっぷりと浸っていたんだと思う。
それはさておき、ステージに登場したBenがThe Blind Boys of Alabamaと一緒に歌い出したのは"I Shall Not Walk Alone"。あのレヴューで「泣けるよ、これ、泣けるよ」と書いていたその曲だ。で、その通り、泣いた。「泣けるよ」って歌や演奏は確かにあるし、そういうことも書くこともある。でも、大の大人、ふたりが両手を高く上げてぽろぽろとマジで涙を流したのがこのとき。ふたりは下手にいたんだが、上手のステージ近くにはDJ、そして、トロージャンズのリーダー、ギャズ・メイオールもわけのわからん雄叫びを上げながらぼろぼろになっている。やつも涙を流していた。結局、親父3名、この爺たちに完全にはまってしまうことになる。いやぁ、ホント、ほとんどバンドは見られなかったけど、今年のフジ・ロックで最高の瞬間を与えてくれたのはアラバマからやってきたじい様たちだった。
そのコンビネーションで生まれたのが今回のアルバム。内容が悪いわけがない。(アルバムのブックレットに書かれている「証人」の言葉によると)なんでも、長いヨーロッパ・ツアーの最後にパリで3日間のステージをやったとき、オープニング・アクトを勤めたのがThe Blind Boysで、アンコールで彼らが一緒になって"I Shall Not Walk Alone"を演奏したんだそうな。この光景が目に浮かぶし、それこそ、フジ・ロックで目撃したものなんだが、そらから帰国した彼らが再び一緒になって、本当は、The Blind Boysのアルバムのために2曲を録音する予定だったそうな。1月25日にそのセッションが始まったんだが、予定以上の5曲を録音。同じ音楽にベースにおく彼らが至福の一瞬を感じる奇跡的なセッションとなったという。そして、2ヶ月後... ちょうど、日本のツアーを終えて帰った直後、3月15日に再び彼らが一緒になってこのアルバムが生まれたという。
幕開けはいかにもBenらしいタイプの曲で、そのバックでバックのコーラスとのバランスの絶妙なこと。この1曲でこのアルバムを手にしてよかったと思うはずだ。そして、『Burn To Shine』に収められている"Steal My Kisses"に似たタッチの"Wicked Man"に流れ込んでくる。ここでのワイルドなスライドギターもいいねぇ。いかにもBenって感じです。そして、おそらく、この曲はフジ・ロックのライヴで歌ってくれたんじゃないかと思うんだが、"Where Could I Go"も絶品ですな。これはThe Innocent Criminalsのメンバーとなったkbdのジェイソンとgのマークによる共作らしく、おそらく、なかで聞こえるリード・ギターはマークのものではないかと察する。(ちょっとギルモア、かなり線を細くした彼を思いだした僕ってヘンかしら?)
といっても、こうやって聞いていって気づいたんだが、The Blind Boysのフィーチャーの仕方が前半のセッションと後半ではちょっと違うなぁって感じる。前半のセッションでは『一緒にやっている』って感じなんだけど、後半のセッションは控えているって感じかなぁ... といっても、アルバム・タイトルはBen Harper and the Blind Boys of Alabamaだから、それがどうってことはないんだけど、両者のコンビネーションのすばらしさを語る限りにおいては前半のセッションの方が強力。アルバムで一番最初にそれが登場するのは"Church House Steps"という曲なんだけど、これなんてBlind Boysの魅力をひしひしと感じるし、「奇跡が起きた瞬間」の輝きが真空パックされているようだ。もちろん、後半のセッションでも"Well,Well,WEll"や"Satisfied Mind"も絶品なんですけど。
いずれにせよ、このアルバム、聞いてください。Benの魅力、そして、The Blind Boysの魅力、その両方を嫌ってほどに感じさてくれるから。それに、今年のフジ・ロックでThe Blind Boysの魅力にはまったんだったら、クリスマスには『Go Tell It on the Mountain』を聞きましょう。このアルバムも濃いから。特にトム・ウェイツをヴォーカルに録音しているタイトル・トラックなんて卒倒しそうなほどに魅力があって、最近のトム自身のアルバムよりずっと気に入っている。そのほかにも、アーロン・ネヴィルとのコンビネーションとか、たまりませんよ。
ということで、Benを通じて、あるいは、フジ・ロックでの演奏でさらに魅力を発見したのがThe Blind Boys。結局、Benと彼らが最初にコラボレーションしたという『Spirit of the Century』も注文してしまった。そのほか、左に結構簡単に入手できる彼らの作品リストを作ったので、チェックしてくださいませ。下手をしたら1000円以下で買えるすばらしいアルバムがかなりあるし、さすがに39年から活動しているという彼らのこと、わけのわからんBest ofもいっぱいある。収録されている曲数とか、時期とかをチェックして自分にとってベストのものを選んでいただければ幸い。にわかファンにはどれを買えばいいかわからないんですよ。といっても、900円ほどだったBest of the Five Blind Boys of AlabamaもJesus Rose With All the Power in His Handsもよかったけし、オーバー・プロデュース気味の『Higher Ground』よりは好きなんですけどね。
2004年10月21日記す。
reviewed by hanasan
-->前回のレヴュー - 『Rare Performances 1960 - 1979』Lightnin' Hopkins
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