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Respect Yourself!
どこかで時代の息吹を飲み込んで、とてつもなく眩しいばかりの輝きを持つ音楽やアーティストに遭遇することがある。だからこそ、それを語り、シャッターを切って写真に収め、あるいは、映像に封じ込めたりする人たちがいる。その瞬間のミュージシャンたちの演奏には有無をいわせない迫力があり、そこから放たれているのは圧倒的なエネルギー。ビデオやDVDの登場で、そういった歴史的な瞬間を簡単に疑似体験できるようになったのは、それだけでも嬉しくてたまらない。今回ここに紹介するのもの、そんな瞬間を見事にとらえたドキュメンタリー映画をDVD化したものだ。
ちょうどのこの作品のパッケージにも書かれているとおり、単純に言ってしまえば、ブラック・ヴァージョンの『Woodstock』なんだろう。数多くのミュージシャンが登場し、演奏する。そして、数多くのオーディエンスが集まっているという意味では、そういったところで、とりわけ問題はない。が、どこかが根本的に違うのだ。なにせWattsとは65年に黒人を中心とした大規模な暴動が起こった場所であり、staxとはディープな黒人色を持つハードコアなソウルのレーベルのこと。それだけでもこの映画の奥に秘められている意味を想像することができるだろう。
『Woodstock』に比較すれば、演奏部分が少なく、ドキュメンタリーに重きを置いている作品だということで、字幕がなかったら、きついだろうなぁということは想像できる。だから、ここで語られていることを理解できないで、このDVDを見て、その核心をどれほど理解できるのは疑問だ。ブラック・ユーモアをふんだんに盛り込んだコメディアン、リチャード・プライヤーがアクセント的に登場するのだが、正直言って、かなり英語を理解できている人でも彼の持つ意味を理解するのは難しいだろう。が、それでも、それぞれのミュージシャンの演奏やオーディエンスのリアクションが、雄弁にその意味を語りかけている。ひょっとすると、それこそがこの作品を傑作として生きながらえさせている理由なんじゃないかと思う。
アメリカン・フットボールの試合が終わり、観客が姿を消してからステージが組み立てられていくという具合に、映画は時間を追って構成されている。その巻頭部分でなによりも圧倒されるのは、まだ若かりし頃のジェシー・ジャクソン。マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺されたそのとき、一緒にいた彼がアフロ・ヘアーにラフな姿で強烈なスピーチを聞かせてくれるのだ。この部分だけでも、このWattstaxというショーがただのエンタテインメントではなく、ギャラザリング、あるいは、デモでもあり、集会でもあるということを伝えてくれるのだ。
「Let's stand together, rise your fists together
(一緒に立ち上がろう、拳を突き上げよう)
I am somebody!
(私は、確固として存在する何者かなんだ)
I maybe am poor, but I am somebody
(貧しいかもしれないけど、何者かであるのだ)
I am black, I am proud...
(私は黒人だ。誇りを持っている)」
マーティン・ルーサー・キング牧師の「I have a dream」にも匹敵する感動的なスピーチをここでかなり簡略化して記しているのだが、この言葉の持っている意味は理解していただけるだろう。それに対して、ひとりやふたりが応えているのではなく、後にロス・オリンピック会場となるスタジオに集まったほぼ全てが黒人の10万人が声を大にして叫んでいる。圧倒的な光景だ。聞けば、このあたりがパブリック・エナミーの初期の作品でサンプリングされているらしいのだが、その作品は聞いていないのでなんともいえない。っても、当然といえば当然だと思う。
時はヴェトナム戦争終結まであと3年ほど。60年代の運動の成果として公民権を獲得したというのに、黒人(有色人種)への差別が幕を閉じることもなく、その翌年には「白人警官」という占領軍に対して抵抗する自然発生的な黒人たちの動きが発展して、アメリカを震撼させたのがワッツ暴動。その3年後には自らの死を予期したかのような悲壮な表情で「The Promised Land」という演説をした後、キング牧師が暗殺され、夢も希望も奪い去られていった時代だった。最も貧しく迫害されている黒人がヴェトナムの最前線に送り込まれ、警察による黒人への暴力沙汰が絶えなかった。そんななかで「黒人であることは美しい、黒人であることに誇りを持とうといった「黒人意識」運動が盛り上がりを見せていった。
黒人のスタッフによって制作され、黒人のヒーローを生み出した映画「SHAFT(邦題『黒いジャガー』)」が大ヒットして、70年にシカゴでソウル系アーティストを中心にフィーチャーして始まったテレビ番組『Soul Train』がアメリカのみならず日本やヨーロッパにまで影響を及ぼし始めていった頃でもある。怒りのみならず、自らの文化に絶対の自信を誇る彼らのエネルギーがこの映画の端々からとてつもない勢いであふれ出ているのだ。
このフェスティヴァルに出演したミュージシャンの中核になったのがメンフィスから生まれたスタックス・レーベル。デトロイトのモータウンが白人を含む広範なマーケットを視野に入れてポップな音作りを指向していたのに対して、なによりも黒っぽいディープなソウル、ファンクを意識していたのがこのレーベルで、Watsttaxが開催されていたときにはすでに他界していたオーティス・レディングがその顔と言ってもいい。が、彼のみならず、ここに登場している全てのミュージシャンに強力な黒さを感じることができる。
圧倒的な迫力のヴォーカルを聞かせるThe Staple SingersのMavisの声。文字通り「私は自分自身を認め、敬意を持っている」とでも言いたげに名曲、「Respect Yourself」を歌うのだが、この自信とたくましさと力強さにいとも簡単に引き込まれてしまう。そして、「I am a son of a bitch!」と叫んで、演奏を始めるThe Bar-Kays。Sly & the Family StoneからPrinceやFunkadelicにつながる強力にファンキーなバンドもとんでもないパワーで迫ってくるし、これから数年後の『Foot Loose & Fancy Free』というアルバムでRod Stewartがカバーすることになった名曲、『If loving you is wrong, I don't want to be right(もし、君を愛することが正しいことでないんだったら、正しいことをしようとは思わない)』を歌うLuther Ingramのセクシーなこと。それを見つめる女性たちの顔がアップで登場するんだけど、全女性が悩殺されているってのが面白い。一方で、ファンキー親父の本領を発揮しているRufas Thomasも仰天もので、ピンクのマントに半ズボンでピンクのスーツに白のブーツというとんでもない出で立ちでオーディエンスを総立ちにさせて踊り狂わせるのにはまいった。しかも、オーディエンスの踊りがめちゃくちゃかっこいいのだ。
他にもAlbert KingやThe Emotions、Rufasの娘、Carla Thomasなどなど、好演が凝縮されているのだが、なによりも圧巻なのは最後に登場したIsaac Hayes。当然のように、この時代を絶妙に映し出した名曲、『Theme From Shaft』を歌うのだが、登場の仕方から、演出、オーディエンスの反応と、どれをとってもぶっ飛んでいる。最初のワウワウ・ギターの音一発で会場のみならず、見ているこちら側までも一気に沸点に達し、「時代の熱」や「パワー」に胸ぐらを捕まれるような感覚を受けることになる。その瞬間の興奮を味わうために何度も繰り返してこのDVDを見ることになったのだが、ひょっとするとそれだけのためにこれを手に入れても間違いはないようにも思えるほどだ。
加えて、ボーナス・トラックとして未発表だったIsaac Hayesの曲が収録されていたり、パブリック・エナミーのチャックDがこの映画についてコメントしているビデオも収録されている。このあたりの話から映画の重要性を再認識することもできるのだ。
その30年後を記念して行われたライヴを収録したのが『Soul Comes Home』。ラインナップといい演奏といい、決して悪くはないんだけど、この『Wattstax』を見た後だと、はっきりいってかなりしらけた。Mavisのヴォーカルも迫力がなくなっているし、全てが同じように聞こえるIsaac Hayesもなにかが微妙に違って「熱」がない。最悪なのは、マイケル・マクドナルドがカバーするオーティス・レディングの『(Sittin' On) The Dock Of The Bay』。ぶくぶくに太った彼が歌うこの曲を聴いて、オーティス・ファンが納得するわけはないように思えるんだけど、見た人はどう思いますか?
2005年1月4日記す。
reviewed by hanasan
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